2-2-01 阿蘇の草原維持と環境

1.阿蘇の草原

(1)日本最大の阿蘇の草原

阿蘇の草原は日本一の広さを誇り、その広さは約20,000ヘクタール。サッカーグランド約20,000面の広さに相当します。

 

(2)阿蘇の草原のタイプ

一言で草原と言っても、利用方法や管理方法の違いで次のようなタイプに分かれます。

① 放牧地

放牧された牛が草をたべ、足を踏み続けることで草丈の低い草原となります。

また牛はワラビ、オキナグサ、クララなど嫌いな草を食べ残すので独特の生態系を作ります。

② 採草地

夏や秋に草を刈るため、地表面まで光が届き多くの種類の植物が育ちます。

ススキ、ヒゴタイなどの背丈の高い植物が育ちます。

③ 茅野(茅場)

放牧や採草に利用せず、野焼きのみを行っているような場所でススキが密生する比較的単純な草原になります。かつては茅葺屋根の材料として冬季に刈り取っていました。今も一部は茅葺屋根の材料として利用されています。

 

(3)草原の1年

年間の阿蘇の草原の利用と管理は上の図のように

①春3月前後に野焼きをします。

草が芽吹く5月ころから秋10月ころまで放牧をします。一部年間を通して放牧する農家もあります。これを周年放牧と言います。

②夏から秋にかけて採草をします。また野焼きのための防火帯作り(輪地切り・輪地焼き)を行います。

③冬は茅刈をします。

 

(4)あか牛

あか牛は、阿蘇などで以前から飼育されていた牛とシンメンタール種を交配させて改良された牛です。耐寒・耐暑性に優れており、放牧に適し、性格がおとなしく飼育しやすいという特性を持っています。​

 

2.阿蘇の草原はいつからあるのでしょうか?

昔の書物(平安時代の延喜式)によれば、千年以上前から阿蘇に草原があったことが分かります。

また地層から一万年以上前から阿蘇に草原があったと思われます。

(1)黒ボク土

上の図は阿蘇の草原にかかわる地層です。上の方の黒い地層を「黒ボク土」と言います。植物が繁茂していたことの証です。

黒ボク土を調べると約一万年以上前から阿蘇に草原があったと思われます。

 

(2)プラントオパール

黒ボク土に含まれる「プラントオパール」を調べることにより阿蘇に草原が広がっていたと思われます。

*豆知識 プラントオパールとは?

植物は土にある「水に溶けたケイ酸塩」を根から吸収し、特定の細胞の細胞壁に蓄積してガラス質の細胞体を形成します。これが残ったものをプラントオパールと言います。(ウィキペディアより)

3.なぜ阿蘇には広い草原があるのか?

なぜ阿蘇にはこんなに広い草原があるのでしょうか?

実は人が切り開いてつくり、そして守ってきたのです。

 

4.どのようにして草原を守ってきたのでしょうか?

阿蘇の人々はこの広い草原をどのようにして守ってきたのでしょうか

毎年草原を焼く「野焼き」をして守ってきました。

野焼きの延焼防止のための防火帯作り「輪地切り」

「輪地切り」の総延長は530kmにもなり、重労働です。

また野焼きは火を扱うので大変危険な作業です。

阿蘇の人々はこのような苦労をして長年草原を守ってきました。

 

5.なぜ野焼きをするのでしょうか?野焼きをしないと草原はどうなるでしょうか?

野焼きをしないで草原を放置するとヤブになり、20年もすると森になってしまいます。草原の維持には野焼きが欠かせません。

 

6.なぜ人々は草原を守ってきたのか

昔は運搬や農耕に牛馬の力を借り、阿蘇のやせた土地には堆肥が欠かせず、茅葺の屋根をふくには草原の茅が必要でした。昔の人々は生活のために必要で草原を守ってきました。

阿蘇には草の霊の慰霊碑が祀られています。いかに草の恵みに感謝していたかがしのばれます。

しかし今は生活様式が変わり草原は以前ほど必要でなくなりました。

不要になった草原を守ることが困難になってきています。

7.草原の面積の減少

草原の使い道が減ったことにより阿蘇の草原面積は100年で約半分に減っています。

 

8.不要になってきた阿蘇の草原をどうして守らなくてはならないのでしょうか?

草原には従来の役割だけでなく「地球に優しい」などの重要な役割が認められ、今後も大切に守る必要なことが解ってきたのです。

次に新しい草原の役割についてみていきます。

草原は放置すると森になってしましますので、阿蘇の草原と保安林を比べたいろいろの研究の結果を見ていきます。

(1)草原の水保全能力

阿蘇では草原にスギを植林すると水が枯れるという年配者の声を聞きます。

地下水の涵養や河川水の有効利用には、蒸発して活用出来なくる水の量が少ない草原が森より水保全能力が優れています。

 

(2)CO2吸収能力(地球温暖化防止)

阿蘇の草原とスギの植林地で地中に固定される炭素の量を調べた研究結果によると約30年間に土中に蓄積された炭素の量は草原がスギの林より1.8倍も多く地球温暖化防止に草原が大切な役割を担っていることが解りました。

草原の炭素固定の仕組みは、草原の根などの分解や野焼きで残る炭に由来する炭素が土中に蓄積され続けます。

 

(3)生物の多様性

阿蘇には約1600種の植物が生育しています。これは熊本県の約70%に相当します。

また昆虫は約1400種が生育しています。その内蝶は約100種で、その数は熊本県の約93%に相当します。阿蘇には広い草原があることにより多様な生物が生息しています。

 

9.大切な草原を守る取り組み

阿蘇の草原を守る組織として「草原再生協議会」が2005年に設立されました。地域住民、行政、専門家、ボランティアなど広い分野の団体、法人、個人から構成されています。

活動の目標は、緊急課題として野焼きの維持、長期課題として草原の活用です。

 

(1)草原活用の取り組み

従来からのあか牛を増やすこと、草の堆肥を使った野菜作り、茅葺屋根用の茅の供給などのほか、新しく「草原を活用した観光」に取り組んでいます。観光にまず取り組んだのは、観光客がいいと感じた阿蘇の風景のアンケートで草原の風景が70%以上と高い数字であったことによります。そのほか草原の活用についていろいろ模索しています。

 

(2)熊本市動植物園のゾウも阿蘇の草原を支えています

熊本市の動植物園にはアフリカゾウ2頭が飼育されています。ゾウの飼料として飼育に適している阿蘇の草原の草を与えています。一頭当たり約200kgの草(生草換算)を食べます。これにより2頭で約6ヘクタールの草原が守られます。

 

(3)日本一の草原から世界の草原へ

阿蘇の人々が草原と共生しその草原を千年以上守ってきた遺産として世界が認めるようになりました。

 

(4)草原を活用してSDGsを実現

草原の活用は地域経済を活性化し且つ地球に優しい草原が守られます。SDGsを実現します。

 

10.みんなにできること

上の絵を参考にしながら、みんなにできることを話し合ってみましょう。

 

YouTube で見る阿蘇の草原のようす

1.野焼きから1ヶ月の米塚草原 240404

3月初めに行われた野焼きから1ヶ月。すっかり芽吹いてきました。つい1週間前のまだ黒かった草原の映像もおまけでご覧いただけます。1週間でこんなに変わるの!とビックリします。

2.北外輪・草原の採草 241207h

瀬の本高原から南に下ってミルクロード・大観峰にかけては、草原が広がっています。ここは、およそ9万年前の阿蘇4火砕流噴火の際に、火砕流噴出物に覆われてできた平らな台地です。この季節、草原に育った草を刈り取り、家畜の飼料とする作業(採草)が盛んにおこなわれています。今回のドライブで、たまたま採草しているシーンや、採草ロールの集荷作業を見ることができました。草原の持続的利活用の風景です。